桂枝茯苓丸の加味方が奏効した接触性皮膚炎(その1:両手指と前腕)

患者は25歳、女性。小児の頃より両手の指に湿疹が出るようになり、以来各所の皮膚科を受診していました。数年前、漢方薬と塗り薬(プロトピック)で一時的に軽快しましたが、完治はしませんでした。約1年前から特に悪くなり、某病院の皮膚科で治療中でしたが、軽快しないため、知人の紹介にて、2001(平成13)年、7月5日来院しました。
身長159cm、体重46kg、血圧94/50、便通は2日に1行、時に立ちくらみや耳鳴りがある。脈候はやや沈・小・弱、舌候は湿潤して微白苔あり、腹候は腹力やや軟で、臍の上下に悸動が著明、胸脇苦満はなく、両腹直筋の攣急は中等度、臍傍の左右やや下に圧痛点が著明。初診時の皮膚所見としては皮膚は乾湿中等度で、両手指に皮疹が著明であり、手指を十分に伸ばすことができない状態(左手指掌面、左手指背面、右手指背面の写真参照)でした。因みにジュースとおまんじゅうが好物でした。
全体像から判断して、陽証でやや虚証であり、“お血”の圧痛点も著名であるので、基本薬方としてはやや虚証むきの駆“お血”剤(桂枝湯に茯苓、牡丹皮、桃仁を追加した薬方)に、更に「よく苡仁」と便秘に対する大黄を追加して処方した他、乾燥した病巣面に対して、ワセリン50gを処方しました。
初診時より2週間後に来院した時には便通は1日に1行となっていて、皮疹の潮紅はやや減退し、乾燥の傾向が増強され、掻痒は時々ある程度でした。4週間後に来院した時には、皮疹の潮紅が再び増悪したようでしたので、黄蓮を追加した薬方を処方しましした。6週間後に来院した時には、手指の方の皮疹は改善が見られるものの、手首から前腕にかけて新しく皮疹が出てきていました。丁度、ゴム手袋のあたる部分なので、その刺激が原因と考えられました。約8週間後に来院した時には、手指の皮疹はますます改善していましたが、前腕の皮疹はまだ良くない状態でした。この日より、大黄およびよく苡仁を去って、黄耆を追加した薬方を処方しました。約10週間後に来院した時には、手指の皮疹かなり軽快傾向を示していました(写真参照)。「よく苡仁」を黄耆に代えてから一時的に皮疹が赤くなったが、その後治ってきたとのことでした。その後も同一薬方で治療し、経過も良く、初診時より約26 週間後に来院した時には、ほとんど完治した状態(写真参照)でした。念のため同一薬方を28日分処方して終了となりました。なお、
間食に関しても「甘味づけ体質」にならぬように十分注意してきたとのことでした。
本症例は、桂枝茯苓丸の加味方の服用により約5ヶ月間で、完治した接触性皮膚炎の症例です。通常、主婦湿疹といわれている皮疹は適当な駆“お血”剤と「甘味づけ体質」の改善でよく治っていくものですが、本症例のように敏感な皮膚を持っていて、前腕にまで接触性皮膚炎の生じるようなものでも、この原則的な治療法で治ることが経験された症例です。また、経験的にイボ状になっている皮疹には「よく苡仁」を使用し、平坦な形状の皮疹には黄耆を使用するとよい効果が期待できます。
本症例も今後の経過を見る必要はありますが、「甘味づけ体質」にならないように注意していけば、あまりひどくはならないのではないかと考えられます。
左手指掌面 右手指掌面 左手指背面 右手指背面
左前腕腹面 右前腕腹面 左前腕背面 右前腕背面

初診時 2001.07.05
約10週間後 2001.09.10
約26週間後 2001.12.27

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