桂枝茯苓丸の加味方が奏効した全身そう痒症

患者は53歳、女性。約2年前からアトピー性皮膚炎という診断で、某大学病院皮膚科にかかっていたが、「かゆみ止め」の薬(抗アレルギー剤?)を服用すると眠くなって困り、某薬局で漢方薬を買って服用したら、頭の中まで痒くなり、身体の方にも皮疹が出てきてしまい、皮膚科の先生に紹介されて、1995年(H7年)1月10日に当院に来院しました。
身長160.7cm、体重57kg、血圧84/44、睡眠・食欲は良好。便通は1日に1行、排尿回数は日中6回で夜間2回。口渇がかなりあり、よく水分をとる。目まいが少し、立ちくらみがかなりあり、手足が冷えやすく、肩凝りがかなり強く、発汗は普通でありました。
脈候はやや浮・中・弱、舌候は湿潤して微白苔あり。腹候は腹力中等度、胸脇苦満はなく、両腹直筋の攣急は軽度、臍の上下に悸動があり、左側の臍傍や下方に圧痛点が中等度にありました。
初診時の皮膚所見としては乾湿中等度で、全身に赤色や褐色の丘疹と色素沈着を認めていました(写真参照)。
因に羊かんやおはぎなど「甘いもの」をよく食べていたとのことでした。
全体像から判断して、まず桂苓丸料を基本薬方として選定し、経過をみることにしました。
初診時より約2週間後(1995年1月24日)に来院した時には、頭のかゆみが減少し、皮疹の黒みが少し改善してきたようでした。ここで、同一薬方にヨク苡仁を追加して経観しました。
初診時より約8週間後(1995年3月7日)に来院した時には、写真の如く新しい皮疹が多数認められていました。先月に薬をもらって服用して1週間で、皮疹がかえって余計に出てきたが、徐々に良くなっているとのことでした。瞑眩ということもありますが、一般には瞑眩ならば、服薬後それほどの時日がたたなくても皮疹が悪化してくるものですので、原因としてははっきりしたことが不明です。あるいは、甘いものの摂取などあったかもしれません。いずれにしろ、軽快してきているとのことなので、同一薬方にて経観しました。
初診時より約12週間後(1995年4月4日)に来院した時には、写真の如く、徐々によくなってきていることがわかります。この頃は、4時間ほどの立ちっぱなしの仕事のため、下肢にむくみが出やすくなり、目まいがあるとのことでしたので、同一薬方に白朮を加えて経観しました。
初診時より約19週間後(1995年5月23日)に来院した時には、写真の如く、さらに良くなっていました。
初診時より約23週間後(1995年6月20日)に来院した時には、更によくなり、目まいもなくなったということなので、白朮を除き、桂枝茯苓丸料加ヨク苡仁に戻して経観しました。
初診時より約33週間後(1995年8月29日)に来院した時には、写真の如く、ほぼ完治している状態でしたので、廃薬をすすめましたが、念のため2週間分の薬を持参して行き、以後来院していません。
本症例はアトピー性皮膚炎のような皮膚の敏感な状態があって、その上に何かの刺激があって全身掻痒症が生じたわけですが、その刺激の一つとして、某漢方薬局からの漢方薬が関連していた可能性があるわけですが、その漢方薬の内容を調べてみると荊芥連翹湯加金銀花・蝉退・石膏・その他というような内容でした。すなわち、荊芥連翹湯と消風散を合方したようなものであったかもしれません。
基本的には桂枝茯苓丸料加ヨク苡仁という簡単な薬方で治っていく病態に対して、こんな複雑な薬方を使うというのはいったい、どのような考えに基づいているのでしょうか。生薬や湯の数が多ければ多いほど、何か異常が生じたとき、その原因を解析するのは困難というよりほとんど不可能となってしまいます。しかし、悲しいことにこのようなやり方が現代の漢方の世界の現実であるようですので、全く困ったことです。これは現代の漢方がいまだ「近代化」されておらず、「法則化」されていないことが最大の原因であり、今後、ますます「近代漢方」を研究していく意義がここにあると考えます。
腹部前面 右胸腹部
左側腰背部 右側腹部

初診時 1995.01.10
約8週間後 1995.03.07
約12週間後 1995.04.04
約19週間後 1995.05.23
約33週間後 1995.08.29

前のページへ このページのトップへ 一つ後へ

閉じる