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3. 葛根湯とともに

 葛根湯医者(これは別名藪医者のこと)という言葉がある。それは次のような話からきている。うろ覚えであるが、ある時(おそらく江戸時代か?)漢方を行う医者がいて、そこを訪れる患者に何かというと葛根湯を処方していたそうである。ある日、病を患った人が付き添いとともにこの医者を訪れた。当の患者を診察して葛根湯を処方した後で、その連れの人に向かい「で、あなたはどんなご用で?」と問い、その連れが「はい、付き添いの者です」と答えると、「では、葛根湯を飲んで、ゆっくりお休み・・・」と言った。というような話だったと記憶している。

 私は道に迷った末にようやく医者となり、その後、漢方を志すようになり、現在は父のいる近畿大学東洋医学研究所に席をおき、助手として勤務しているが、葛根湯は私自身も愛用し、また、頻繁に処方する薬方でもある。(つまり藪医者の仲間入りということであろうか?)

 父が医者であり、また漢方をやっていたものだから、小さい頃より風邪を引いたら、必ず葛根湯を飲んでいた(というより飲まされていた・・・)。下痢や吐き気が強いときなどは、ときに半夏瀉心湯なども併用していた。この2つの薬方でだいたい事足りてきた。頭痛がやや強いときなどには西洋医学の一般総合感冒薬である、PL顆粒を使うこともあったが、風邪で病院へ行ったことは記憶していない。少なくとも物心がついてからは・・・。

 高校生の時、友達の家に遊びに行ったとき、たまたま、その弟が風邪を引いていて、病院に行くというので、一緒についていったことがあり、このとき、初めて「なんと病院とは人の多い所だろう」という思いと、他の人は風邪(ごとき?)で病院へ行くものなんだなぁという驚きをもったことを記憶している。このとき、友達の母親が「ついつい抗生物質に頼ってしまって・・・」というようなことを言っていたが、抗生物質が何を意味するのか知らなかった。ただ、そういう薬で他の人は風邪を治しているのかという漠然とした思いを抱いたものである。

 現在、医者となり、一般病院でも外来をするようになり、なんと多くの患者さんが、風邪で来院することかという思いをあらためて深めている。一般的に多くの病院や診療所では風邪のときに抗生物質や解熱剤を処方する傾向にある。しかし、風邪の多くの原因はウイルスであり、抗生物質は細菌に対する薬であるので、予防的としても、むやみに処方するのは、決して良いことではない。むしろそういった漠然とした抗生物質の乱用によって耐性菌というやっかいな現象を引き起こしていることも周知の事実である。確かに、細菌感染が明らかなときには、抗生物質は有用な薬であり、この薬の登場によって多くの患者さんの命を救ってきたことも事実ではあるが、やはり使用にあたっては、確かな診断をつけてからにするべきであろう。また発熱を気にする人も多く、今では鎮痛解熱剤が簡単に手に入るので、ちょっとした熱でも直ぐに解熱剤で対処する傾向にあるが、発熱はむしろ精妙な人体が風邪に対抗して(治そうとして)自然に出してくる反応であるので、直ぐに下げてしまうことはやはり良くない。熱を下げれば、一時的には楽かもしれないが、風邪を長引かせる原因ともなるし、こういった便利さが、自然と人の抵抗力を奪っているのかもしれない。

 普通の風邪(特に冬の風邪)の時は部屋を乾燥させないようにすることや、普段から手洗い・うがいをよくするようにといった、一般的な注意をすることはもちろん大事であるが、初期には体を暖かくし、十分発汗させることが最も大事なことである。この働きを助ける葛根湯は、多くの人に最も適した安全な薬方である。葛根湯は昔からそうだが、近代漢方(近畿大学東洋医学研究所において提唱し、実践している近代化された漢方のこと)の基本8湯の分類では(強)汗方湯に属する。これは自然な発汗を助け、自然な解熱を促すものである。その他、鼻や喉の異常に対しても、よく作用する薬であり、慢性の肩凝りその他の疾患にも使う応用範囲の広い薬方である。

 葛根湯とともに育ってきた私は今でも葛根湯を自分自身で愛用し、多くの人に処方している。

(遠田弘一)