|
5. 漢方薬の処方はどう決める
漢方の診察室に入ると、まず症状や状態を事細かに聞き、脈やお腹を診た後で、医者はやおら漢方薬名を処方箋に書き込みます。脈をとって何がわかるの?どうしてお腹の病気でないのにお腹を見せるの?等々、色々不思議に思われることが多いと思います。今回は漢方の診察で漢方医は何を診ているか、また処方をどうやって決めているかについてお話しします。
症状を聞くのは西洋医学と同じですが、問診ではいくぶん異なるところがあります。まず、便通や排尿回数など排泄に関することを詳しく聞きます。これは漢方の本質とも結びついたことです。次に、冷え、渇き、肩こり、めまいや立ちくらみの有無、生理の状態など西洋医学ではあまり重視しない事柄も聞きます。これらの症状の有無によって使う漢方薬が違ってきます。
診察で特徴があるのは脈の状態(脈診)と腹部の状態(腹診)を見ることです。脈診ではおもに脈の強さを見、腹診では色々見るところはありますが、一番大切なのは腹部の力です。体力のある人は押さえるとやはり弾力があり、その分強い漢方薬も使えますが、衰弱した人ではお腹に力がなく、強い漢方薬は向きません。
先に漢方の本質と述べましたが、漢方の本質とは何でしょう。漢方薬は、汗を出したり、便を出したり、尿を出したりという排泄過程(逆に排泄を抑える場合も含む)を通じて、身体が本来持っている自然治癒力を引き出すことによって病気を治しているようなのです。頼りなく聞こえるかもしれませんが、その分自然で副作用もなく病気を治せる訳です。この辺りはなかなか難しいので、興味のある方は拙著「漢方教室」でも読んでくださいね。
さて、問診をして診察をすれば、完璧な漢方薬が出せるのでしょうか?これがなかなか難しいのです。病気と漢方薬の対応は実に曖昧ですので、漢方治療家が違えば同じ人にも違う処方が出されることでしょう。西洋医学の目指す治療の標準化とは正反対の位置にあります。診断アルゴリズムは実に複雑すぎて、コンピューター診断にもなじみません。この辺りに、漢方治療の難しさと、またおもしろさがあるのです。
(雨宮修二)
|