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10. 漢方復興の大恩人(4)

 前回に紹介した湯本求真先生と並んで、漢方古方の復興に尽力し、後世に大きな影響を与えた人に奥田謙蔵先生がおられます。湯本先生とは非常に仲がよろしく、親友として、また、同じく古道を歩む同志として交際され、お互いにそれぞれの持ち味を認め合い、尊敬し合っていたようです。お二人とも漢方の復興に対しては、深い「祈り」を持って生きられ、漢方の為に「生命を捧げられ」た先生でした。その先生の書かれました第1の書が、『皇漢医学要方開設』(春陽堂、昭和9年)という本です。
 奥田謙蔵先生という人は納得のいくまで学問し、研究し、最も公正な見解を、そっと静かに出しておかれる、博学にして謙虚な、底の深い人なのです。そういう人が日本の漢方古方の伝統に沿って、「観念論」を離れ、「独断」を排し、長年の臨床実践の成果に基づいて、古方の薬方を解説された本です。古方の解説書としては、まさに、絶品中の絶品とされたのも当然の事です。これに触れることの出来た多くの人が、これを教科書として、臨床実践の基本に据えていき、それぞれ大いなる成果をあげていったのは勿論の事です。
 「産経時事」という新聞の「歩みよる東西医学」という学藝欄の昭和31年5月15日の部分に72才の奥田謙蔵先生についての紹介記事がありましたが、「草根木皮が病気をなおすと思ったら大間違い。体自身がなおろうとするのを助けるだけですよ。」という先生のお言葉と思われる部分がありますが、これは先生の漢方に対する根本的な見方であるのですが、筆者の漢方に対する根本的な見方でもあるのです。
 先生は一切の雑事を避けて、一生を『傷寒論』研究一筋に打ち込まれた、志操堅固にして、高潔清廉な方でした。昭和36年3月9日未明、先生は77才の生涯を閉じられましたが、その間際まで、身には心疾患という重篤な病を持っておりながら、後進の育成指導と漢方の復興に尽力され、誠に大往生であったと存じます。
 その他の様々な事柄について、より深く知りたい方々は、どうぞ拙著『近代漢方:総論』(医道の日本社、1998年)をお読み下さい。


(遠田裕政)