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冬の風邪とインフルエンザ

  3月も終わりに近づき、ようやく暖かくなり、春になってきた感がありますが、まだ、朝方など寒い時もあります。今回の冬は特に感冒性胃腸炎(あるいは感冒性嘔吐下痢症)とインフルエンザが目立ちました。インフルエンザなどはまだちらほら散見されます。私も週に1回、他の病院の内科の外来をしていますが、2月に入った頃から3月半ばまで毎回1人〜7人程度のインフルエンザの患者さんを診ました。「急に38℃〜40℃の熱が出てきました」という典型的な訴えでやってくるので、迅速診断キットで調べると、本当によくヒットしました。通常の風邪とインフルエンザでは、もちろん症状とその程度あるいは流行性に関して違いがありますが、基本的にはウイルス(場合によっては細菌)が原因であり、そのもっとも重要な予防法としては共通しています。私は内科外来で診る風邪(あるいはインフルエンザ)の患者さんにはなるべく、下記に記すようなことを話すようにしています。ただし、受診する患者さんは既に症状に罹患しており、中には高熱で頭がふらふらしている人や、お腹のむかつきで、それどころではない人もいますので、どれだけ記憶に残っているかはわかりませんが、この場を借りて、もう一度話しておこうと思います。次回の冬の風邪やインフルエンザに備えて・・・。
  一般的に言って、風邪あるいはインフルエンザは飛沫感染あるいは手や指先を介することによる感染によって罹患するとされています。つまり、口や鼻から病原体(ウイルスや細菌)が入り、のど(咽頭)から肺に達するまでの空気の通り道(気道)付着して炎症を引き起こすわけです。特に上の方(鼻腔・咽頭・喉頭のあたり)に炎症が起こると、咽や鼻の症状としてよく見られる風邪(急性上気道炎)ということになります。もちろん、それより奥の下気道にまで炎症が及ぶこともあります。このようなことを踏まえると予防法として重要なことも自ずと明らかになってきます。それは外出時は、特に風邪やインフルエンザが流行っている時期は、人混みの中ではマスクをし、帰ってからの手洗い・うがいです。顔などに病原体が付着していることもありますので、外から帰ってきたら、顔と手を洗い、よくうがいをすることが大切です。まったく単純なことですが、実は一番重要な予防法であるわけです。次に大事なこととしては、部屋の乾燥を防ぐことです。冬は特に乾燥しやすい時期であるので、部屋の中も乾燥しやすくなり、病原体は軽いので、空気中を漂いやすくなる上、鼻粘膜なども乾燥して病原体が入り込みやすくなるのです。部屋の湿度は50〜60%以上には保った方がよいとされています。昔は自然の知恵で、ストーブの上にヤカンをのせてお湯を沸かし、いつでもお茶を飲める状態とともに自然な蒸気で部屋の湿度を保っていたのですが、今はエアコンで暖房している場合がほとんどですので、さらに乾燥しやすい状況を作り上げています。現状に即した対策としてはやはり加湿器を使うのが一番いいと思います。また空気が淀むのもよくないので、冬でも昼間は適度に窓などを開けて換気をすることも大切です。以上のことが一番重要な予防法です。わかってはいても以外に見過ごされていることだと思います。
  さて、次に罹ってしまった場合の対処です。簡単に言うならば、水分補給、身体を暖かめに保つ、ゆっくり休むということにつきます。あまり簡単なので、気が抜けるかもしれませんが、一つずつ話します。
  ゆっくり休むということですが、これは実は多くの人がしたいけれどもできないことの一つではないでしょうか。日本では風邪ぐらいで仕事を休むことは許されないという風潮というか社会的背景があります。私は留学の経験はないので、これはその経験をした人から聞いた話、あるいは本などで体験談を読んだことからの引用ですが、米国では風邪を引いて出勤するといやがられるそうです。つまり風邪をうつされる可能性があるからです。「風邪は万病のもと」と言われるように、侮ってこじらせると様々な病気を併発するものなので、やはり風邪の時は気兼ねなく、ゆっくり休める社会のあり方が望ましいとは思います。しかし、現状では人それぞれの事情に合わせて、なるべく休養をとるようにするしかないようです。ゆっくり休むことで、落ちている抵抗力を回復させることができ、風邪を風邪のまま(万病に至らせずに)治す環境を整えることができます。
普段から抵抗力を落とさないためにも、あまり無理をし過ぎるような生活状況も要注意です。すなわち、睡眠不足、喫煙、暴飲暴食、過労働あるいは遊びすぎ・・・と多くの人が「わかっちゃいるけど、やめられない」生活習慣等です。
  次に身体を暖かく保つということですが、実は、人間の身体は精妙にできていて、風邪などを引くと体温調節機構の働きで、自然に発熱する方向に促されます。これは高体温下では病原体の増殖が抑制されるそうで、遙かな昔から自然に備わった生体の防御反応の一つなのです。こうして増殖を抑制している間に抗体などを作って、病原体を体外へ排除し、病気が治るという経過をたどります。従って、風邪は人にもよりますが、大体1週間前後で、上記のような経過を辿り自然に(薬を服用せずとも)治るものなのです。ところが、誤解をしている人が多く、何か薬を飲まないと治らないか、点滴あるいは注射をすると早く治ると思っているようです。薬は治しているというより、症状をやや軽減して過ごしやすくしていると思ってください。その間に上記のような経過を辿り、本来は身体自体が治しているのです。また、点滴などが意味を持つのは、その方法でしか、水分を補えないような病態のとき、すなわち、発熱によって、頭がモウロウとしている、あるいは吐き下しが激しく、口からの飲水が困難である場合などです。あまりにひどい脱水傾向に陥ると生命の危険にもつながりますので、そのような時は点滴が非常に有効でありますし、必要に応じて解熱剤や場合によっては抗生物質を投与することもできるのです。今ではたいていどこの医院でも手軽にできますので、昔に比べれば、この恩恵は計り知れないものがあります。しかし、それ以外の場合は一時的に気分がよくなることはあっても点滴が病気そのものを治すわけではありません。必要もないのに点滴をするのは、痛い思いをして時間をかけて、スポーツドリンクを1本飲む程度のことをしていると思った方がよいでしょう。またいま出てきた抗生物質ですが、抗生物質とは細菌に対して使用する薬ですので、肺炎その他で、細菌による感染症が明らかな場合は必要となってきますが、風邪の多くはウイルスが原因ですので不要なものです。
  さて、ここで重要なことに発熱の対処ということがあります。今まで述べたとおり、発熱は重要な生体防御反応の一つでありますので、ただ闇雲に熱がでたら、解熱剤を使って下げるということは、身体がせっかく治そうとしていることを阻害して、病気を返って長引かせることをしていることになります。確かに、熱が有るときはしんどいでしょうし、解熱剤を使えば、おそらく楽になるのでしょう。しかし、やたらに使う習慣をつけてしまうのは、上記の理由で良くないことなのです。多くの患者さんはすぐに熱を下げて楽になろうとし(これも社会的要因がからんでいるようですが)、すぐに解熱剤をほしがる、医者は上記のことを説明しても一文の得にもならない、薬を処方すれば、それだけ儲かるということで、簡単に処方しているのが現状ではないでしょうか。今は健康ブームですので、自分の健康については、ただ医者任せにするのではなく、自分で管理していく人達も増えてきていると思いますが、上記のような人間の身体の精妙な機序について、十分留意する人達が多くなればなるほど、不要な医療がまかり通ることも少なくなっていくのではないでしょうか。
  さて、最後に水分補給ですが、人間は生まれた時の身体の水分の占める割合は約80%と言われています。年齢が進むに従って、だんだんひからびてくるのか60〜70%ぐらいになるそうですが、やはり、水分が大部分を占め、重要な役割を演じています。また、成人では人によりその量は前後しますが、排尿その他で一日平均約2リットル近くの水分を失うと言われます。尿として不要なものを体外へ排出し、また様々な物質代謝の場としても、水分はなくてはならないものであり、従って、普段から水分を十分補給することは大切なわけです。特に風邪などに罹患した際は発熱したり、下痢したりとさらに水分を失う状態になるので、こういう場合は特に意識的に水分補給が大事なことになります。
  漢方では、昔から、風邪のような病態のときは、よく発汗を促す働きのある湯を処方してきました。もちろん、その人の証(人それぞれの病態の特徴を漢方的にとらえた理学所見)によって、強力に作用させる処方にするか弱く作用させる処方にするかという違いはあります。発汗を促すというのは、上記に述べた生体防御反応の発熱を促しやすい環境を整えるということになります。特に夜寝るときにじわ〜っと汗をかくように持っていくと汗をかいた後に自然に解熱を促すことになります。また、風邪に伴う、身体の節々の痛みも上手に汗をかければ、1日で軽快することもあります。汗をかくと体内水分が減少し、脱水傾向になります。従って、水分補給が重要となるのです。
  まだまだ、言いたいことがたくさんあるのですが、かなり長くなってしまったので、これで筆を置きます。毎冬必ず、注意しなければならない風邪予防です。以上のことを心にとめて、これからの冬を元気に乗り切っていってほしいと切望いたします。

(遠田弘一)