以前のトピックス

医療費を抑制しすぎてごめんなさい

  さしもの花粉症もピークを越えたようです。ほとんどの患者さんはもう楽になったとおっしゃいます。かくいう私もアレルギーには縁がないと高をくくっていたのですが、今年はどうやら発症してしまったようです。「先生、眼をこすってますね。」と先日指摘され、気がつくと確かに眼に手がいくことが多いのです。血液検査はしていませんが、抗ヒスタミンの眼薬で改善するところからすると、確かに花粉症のようです。
  痒い眼をこすりながら、日本の医療改革をイギリスと比べ検討した本(「医療費抑制の時代」を越えて、近藤克則)を先日読みました。タイトルからわかる通り、これ以上医療費抑制政策を続けると日本の医療は荒廃するといった内容です。以前にこの欄で「思考停止」と題して日本の医療費は決して高くないとグラフを掲げて触れたことがありました。医療の破綻した(癌患者が手術するまで2年待たされた!)イギリスと対比しての検討を読むと、さらにその感を強くしました。医者である私が医療費は抑制するなといっても、我田引水と思われてしまうかもしれませんが、他国の医療事情もよく知って、マスコミの偏った論を鵜のみにしてほしくないものです。
  先進国中唯一対GDP比医療費が日本より低いイギリスでは、基本的に医療は国が提供し、費用は無料ですが、必要な医療を必要な時に受けることは誠に難しいようです(待機者名簿には常に100万人前後の待機者)。理由は医師も看護師も不足している上、医療従事者の士気の低下が著しいのだそうです。医師は待遇の良い他国に流出してしまいマンパワーが不足している上、不幸な医師はもう頑張らない。さすがにこれではだめだと悟ったか、ブレア政権になって医療費を上げる政策に切り替え、医療費を1.5倍に引き上げ、まずはヨーロッパの先進国のレベルにまで追いつこうとしているそうです。
  さて医療改革というと医療費の抑制しか頭にない日本の為政者はこうしたレポートをどう読むのか。改革と称して一部の財界人に都合の良いように、世界でもっとも効率の良い医療とWHOからもお墨付きを得ている日本の医療制度を壊してよいものか。開業医の集まりに出ると、早く辞めたいという先生も増えてきています。イギリス程ではないにせよ日本でも医療従事者の士気は落ちつつあるのかもしれません。
  医療事故が絶えないのはどうしてか。医師や看護師が不注意なせいでしょうか。研修医の厳しい労働条件や看護師の厳しい仕事ぶりや人手不足を改善しない限り、医療事故は減らないでしょう(地域の寿命を決める因子は人口あたりに医師数という報告あり)。効率と安全は両立しがたいのは、JR西の列車事故を見るまでもなく明らかなことです。長期に及ぶ医療費抑制政策の歪みはもう出ているのです。ゆとり教育は誤っていましたと、文部科学大臣は子供に謝りました。医療費を抑制しすぎてごめんなさいと、厚生労働大臣が国民に謝る事態にはならないでしょうか。

(雨宮修二)