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前回は、西洋医学と東洋医学の違い、漢方医学の伝承の大きな流れ、今行われている漢方とその問題点などについて簡単に解説してみました。今回は近代漢方の基礎について若干解説してみたいと思います。若干といってもこの部分は考え方の最も基本的なところですので、より詳しく説明しておきます。また、図表と共に解説の大部分は「近代漢方総論」からほぼそのまま抜き出していることをお断りしておきます。

近代漢方の基礎[1]

前回も触れましたが、西洋医学はその基礎を細胞病理学の上に置き、東洋医学(漢方医学)は、生命個体そのものを分離不可能な単位として、病の理をきわめ、その治療法を求めるものであるために、その基礎を個体病理学(故 遠田裕政命名)とでもいうべきものの上に置いてあるということになります。従って個体レベルの生体反応のあり方、変化の仕方ということが重要な目標となり、それらに働きかける方法でその独特な治療術を発達させてきたわけです。この個体レベルの生体反応をもう少し具体的に考察してみます。
人間の生命個体を構成する物質の中で量的に最も多いのは水です。年齢によっても若干違いはありますが、水分がおおよそ体重の70%を占めていて、体重の約50%が細胞内液、約15%が細胞外液、約5%が血液とされています。したがってこの水のあり方いかんは、その生命個体の存在状態を大きく規定していると見ることが出来ます(第1前提)。そこでこの水のあり方に着目して個体レベルの生体反応の特徴を考察してみます。
人体の水の出入りを考えてみると(図1)、自然の状態で摂取は飲水という1方法であるのに対して、排出には発汗、嘔吐、下痢、利尿と大きく4方法が考えられますが、嘔吐と下痢は胃腸管を通じての水の排出としてまとめると水の排出に関しては、

皮膚を通じての排出(発汗)
胃腸管を通じての排出(嘔吐、下痢)
腎を通じての排出(利尿)

という3基本型に分類することが出来ます。
もちろん、この水の排出には細胞レベルや分子レベルでの各種の作用があるわけですが、これらをすべて把握することはできませんので、個体レベルの生体反応の最終結果を参考にして、その上で把握することにします。

上記の生体反応を3基本生体反応として下記のように命名します。
汗方反応:発汗と深い関連をもった個体レベルの生体反応
下方反応:嘔吐や下痢と深い関連をもった個体レベルの生体反応
和方反応:反発汗、反下痢・嘔吐としての利尿と深い関連をもった生体反応

さらにこれらの基本反応の相互関係を水の動きという面から考察してみる(図2)と正常体にあっては発汗が過多になると下痢および利尿は減退し、下痢が過多になると利尿および発汗は減退し、利尿過多になると発汗および下痢は減退するというような調節的な関係が生体の維持、存続のために、必然的に作動しているであろうことが予想されます(第2前提)。つまり、任意の2つの基本生体反応は共同して残りの他の1つの基本生体反応に拮抗的に働いているということになります。この関係を協同的背反関係と名づけておきます。
結局、生命個体とは上記の3基本生体反応の協同的背反関係を通じた動的平衡状態の上で、生命活動を営んでいるということになります。
正常体とはそれらの間の調和の良くとれた状態であり、病体とはそれらの間の不調和の状態ということになります。そして病態は3基本生体反応を通じて、あるいは発汗し、あるいは下し、あるいは利尿を促進してそれらの間の不調和(歪)を改善して正常体にもどるものであり、漢方治療とは、結局これら3基本生体反応に生薬複合物のそれぞれがもっている編性を利用して働きかけ、もともと生体がもっている歪回復力を助け、その歪みの回復をより早くしていく治療法と捉えられます。

今、3基本生体反応間の平衡状態を正三角形の座標で表現してみる(図3)と、中心の円内は正常体の領域、の領域は主として汗方反応を促進すべき状態(汗方症候群領域)、の領域は主として下方反応を促進すべき状態(下方症候群領域)、の領域は主として和方反応を促進すべき状態(和方症候群領域)をそれぞれ表現することになります。また、汗方反応の促進だけで正常体にもどれる病態を純汗方等証、下方反応の促進だけで正常体にもどれる病態を純下方等証、和方反応の促進だけで正常体にもどれる病態を純和方等証とするとき、それぞれ残りのもう1つの反応の同時的な促進により正常体にもどれる病態は、6種類あるわけです。すなわち、汗方下方湯証、汗方和方湯証、、下方和方湯証、下方汗方湯証、和方汗方湯証、和方下方湯証です。
実際の治療としては、この理論および図表の通りにうまくいくわけでは決してないのですが、漢方を体系的に捉えるために、その治療の大きな仕組みを把握しておくことは重要でしょう。



まとめておくと、個体病理学上では、生体とは3基本生体反応の協同的背反関係を通じて、その存在を維持しているものであり、正常体とはそれらが良く調和のとれた状態であり、病態とはそれらが不調和(歪)の状態にあるものであり、治療とは生体が本来もっている歪回復力によって、病態から正常体にもどろうとする傾向をより早めていくことであるという、最も基本的な認識(第1原理)が得られたことになるはずです。
漢方治療というのは、結局この第1原理の上に立って、それぞれの生薬構成によって規定された独特の性格をもつ漢方薬方をもって、3基本生体反応に独特な働きかけを行っていくことです。したがって、どんな生薬構成をもったものが、3基本生体反応に対して、どんな特殊な影響を与えるのかを研究していく必要が生じてきます。

このような見方・考え方に立って、細胞病理学との関連を若干考察します。
生体は基本的には細胞とそれを取りまく細胞外空間とよりなるものと考えられます。そして細胞の働きは細胞そのものの特性に基づくものの他、細胞外空間の条件によって規制されたり影響を受けることが考えられます。病体には病体なりの外液のあり方があって、漢方薬の働きはその外液のあり方を正しく変調して細胞本来のもつ働きが正しく発現されるようにしていくと予想されます。この仮定に立てば、漢方療法は非特異的細胞外液変調療法という言い方もできるでしょう。

漢方薬のある成分が細胞に直接働きかけていくことも否定できませんが、細胞外液に働きかけその状態を変調することによる細胞への間接作用ということも十分に考慮しておくべきことなのです。というのも、西洋医学による漢方薬のアプローチはもっぱらある細胞に特定の効果を与える有効成分のみを追求するような方向になりがちです。
それによって、漢方薬の一部の治療作用は説明できるかもしれませんが、それは漢方薬のすべての作用を説明したことにはならない可能性があります。このような方向のみで研究がなされると、それは、漢方医学を研究しているようで、実は、西洋医学に使える有効成分のみの追求ということになります。新薬の開発には役立つかも知れませんが、漢方医学を正しく確立する方向からはズレていってしまう懸念があります。一つの生薬の中にも複数の成分があり、いくつかの生薬の組み合わせによって成り立っている漢方薬ですので、その成分は無数にあることになります。それらの成分のうち、あるものは細胞に直接働きかけ、あるものは細胞外液に働きかけることによって、間接的に細胞に影響することがあるだけでなく、ある成分はメインに作用する方向とは拮抗するような働きに作用しているかもしれません。それらの総合的な働きによって、ちょうど良い変調作用が結果的に生じているかもしれないのです。このような可能性のすべてを考慮しておかないと本当の漢方薬の働きを解明することにはならないため、細胞病理学的な視点からの研究でこれを解明することは、実は容易ならざることなのです。

前回の繰り返しになりますが、近代漢方の立場とは、この非特異的細胞外液変調療法ともいえる独特な治療学を個体病理学の視点から捉え、大きな方向性(枠組み)をきちんと(≒近代的な物の見方・考え方で)認識しておく一つの試みであろうと思います。
上記のような細かい機序はそれこそ、人体の解明が進むにつれ、情報が増えていくことでしょうから、その都度、肉付けをしていけばよいのです。最もそれは、気の遠くなるような時間が必要かもしれません。しかし、大きな枠組みだけでもきちんと体系づけておくことによって、かなり有効な治療は出来うると思います。

今回はここまでにしておきます。次回は、近代漢方の特色でもある、処方構成式、処方構造式、湯の3層構造といったことなどについて解説する予定です。

遠田弘一


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